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第12話 皇太子妃教育、初日

Author: みだん
last update publish date: 2026-08-29 05:00:08

案内された部屋の扉が開いた瞬間、私は足を止めた。

「……あの」

「気に入らないか」

「いえ、そうではなく」

窓辺に、花が活けてあった。

白い小さな花が、房になって垂れている。

鈴蘭だ。

――子どもの頃に好きだった花は。

馬車の中で、聞かれた。

答えたのは五日前だ。

屋敷の裏庭に自生していて、母に「毒があるから触ってはいけません」と叱られた、と。

だから好きだったのだと。

危ないものを可愛いと思うのは、私の悪い癖かもしれない、と。

そんな話まで、私はしたのだった。

書棚を見た。

恋愛小説が並んでいた。

背表紙を撫でていくと、アーデルハイドで流行った作家のものが混じっている。

翻訳ではない。

原語のまま取り寄せてある。

寝台の脇の卓には、焼き菓子の小箱がひとつ。

椅子の背には、薄い毛織の膝掛け。

私はしばらく、部屋の真ん中に立っていた。

「……五日で、ここまで」

「四日だ。手配は二日目の夜に出した」

「二日目」

「あなたが答えてくれた端から、早馬に持たせた」

彼は何でもないことのように言った。

「足りないものがあれば言ってくれ。すぐ揃える」

「……足りません」

「何が」

「心の、準備が」
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